すぐに走り出していった様子コウカワイルカ
すぐに走り出していった様子でしたが、程経て下僕が、一匹の見るからに剽悍(ひょうかん)無比などら猫を曳いて帰ったので、退屈男は手ずからそれなる不審の鯛をとりあげると、笹折ごとに投げ与えました。飢えたるところへ、好物の生魚がやにわと降って来たので、何条野良猫に躊躇(ちゅうちょ)があろう! 野蛮な唸り声を発しつつ、がぶりと勇壮に噛みつくと、見る見るうちに目の下一尺もあろうと思われる品を平らげてしまいました。
然るにいささかこれが奇態です。黒血を吐き垂らしている工合といい、贈り主の気にかかる男であった点といい、もしや何ぞ不届きな仕組みでもありはしないかと思われたればこそ試食もさせたのに、予想を裏切って野良猫は、ぺろぺろとおいしそうに頂戴してしまうと、至って堪能した顔つきをしながら、一向に平然として立ち去ろうとしたので、はて疑ぐりすぎたかなと思いながら、いぶかしんで見詰めていると、だが――その二瞬とたたない途端です。
五足六足行きすぎたかと思われましたが、果然、野良猫が足をとられて、ころりとそこに打ち倒れると、いとも不気味な呻き声をあげながら、断末魔の苦悶を現して、たらたらと黒血を吐き垂らし出しましたので、ぎょッとしたのは京弥でした。